都内最大級の梅の名所、高尾梅郷をたずねた。アクセスはJR中央線と京王線のどちらでもよいのだが、多少運賃は高くとも東京や新宿から早く着く中央特快をおすすめしたい。高尾梅郷はとにかく広い。
筆者は徒歩ですべての梅林を回ったが、なんと4時間半もかかってしまった。全長にして約10km、散歩というよりもはやハイキングである。遅くとも午前11時までには高尾に着いていたいところだ。
バスで回るという手もあるが、道中にもおもしろい名所やすばらしい景色が待っているので、ぜひ徒歩で回ってほしい。そこを鑑みると、やはり早めに高尾に着いておくのがよいだろう。
高尾駅から歩く

JR高尾駅の北口に降り立つと、東京とはおもえないのどかな風景がひろがっていた。遠くには山々の稜線がかすみ、不思議な気分になる。
高尾駅の駅舎はむかしながらの銭湯をおもわせる堂々とした造りで、駅の看板もふくめ実に立派だ。高尾山口駅も木を基調としたデザインで、高尾は駅舎も見どころのひとつといえる。

最初の目的地、遊歩道梅林へむかって歩きはじめると、道々に梅まつりを盛り上げるピンク色ののぼりがはためいている。高尾梅郷は梅林と梅林のあいだにも梅の木が点在し、高尾の街全体が梅に彩られているようだ。川をはさんで京王高尾線が走り、シルバーの車体にピンクのラインが入ったデザインは梅の街によく似合う。
遊歩道梅林

歩いていくと最初の梅林「遊歩道梅林」が見えてきた。小仏川の土手に延々とつづく梅の木が、紅白いり乱れて花のトンネルをつくっている。
土手はひろびろとしていて、レジャーシートを敷いて腰をおろすこともできる。望遠レンズで梅の小径をとらえれば写真映えまちがいなしだ。おだやかな小仏川のせせらぎを耳にしながら梅の香りを楽しんだ。
関所梅林

おだやかに流れる小仏川に見とれて川沿いを歩きつづけていたら、うっかり梅郷エリアを外れてしまった。散策のさいはぜひ公式が配布している地図を見ながら回ってほしい。
なお、遊歩道の先にある駒木野公園でも梅を見ることができた。ベンチもあるので、ひと息つくにはちょうどいい。
遊歩道を右に曲がり住宅街をすすむと、国指定史跡の小仏関所が見えてくる。徳川幕府が甲州道中の要衝として整備したこの関所跡は、いまは広場となっている。ベンチも多数設置され、広場を囲むように梅の木が咲いており、ピンク色の花が多いように感じた。

梅まつりではイベント会場にもなるという。高尾梅郷のなかでもとくに歴史を感じる場所だ。
小仏関所の近くには神明神社がある。山のほうへ登ったところにあり、高台からは梅の木々を見下ろすことができるので、あわせて巡ってみてはいかがだろう。
途中で中央線の上をまたぐ高架を渡ったが、ちょうど特急かいじが通り過ぎていった。
天神梅林

旧甲州街道をすすみ、小仏川にかかる梅郷橋を渡ると天神梅林に入る。ここは丘になっており、階段や斜面を登って頂上にある高尾天満宮を目指す。
斜面には所狭しと梅が咲きほこり、まるで梅の屋根の下をあるいている気分だ。木には紅白のちょうちんが飾られ、お祭り気分がかきたてられる。

急な斜面を登りきると、天満宮の額がかかげられた石の鳥居と祠がちょこんと佇んでいた。大きな社殿ではないが、高尾山麓に数百年鎮座しているというから、小仏関所とならんで由緒ある歴史を感じる名所だ。丘の頂上から見おろす梅林のパノラマは圧巻だった。
新井梅林

高尾梅郷は南から順に小仏川、旧甲州街道、中央本線、中央自動車道が並走するように東西にはしっている。新井梅林は中央本線と中央自動車道のあいだに位置する梅林だ。筆者はうっかり通り過ぎてしまったが、遠目からでもその姿を望むことはできた。
新井梅林の横には中央自動車道が通っており、梅の木をはるかに超える高い高架がダイナミックにそびえ立つ。また、中央本線も走っているので電車と梅のコラボレーションも楽しめる。

近くには「いのはなトンネル列車銃撃慰霊碑」がある。太平洋戦争末期、旅客列車が米戦闘機群の銃撃をうけ60名以上が命を落とした悲劇の地だ。供養塔と慰霊の碑が建てられているので、ぜひ立ち寄ってみてほしい。周辺に咲きみだれる梅が、犠牲者へのたむけの花のように感じられた。
高尾梅の郷まちの広場

旧甲州街道を歩いていてふと上を見あげると、頭上にかかる圏央道の高架に圧倒される。その真下に「高尾梅の郷まちの広場」がある。梅まつりではイベント会場にもなり、テントが張られていた。
旧甲州街道に面した北側は公園のようなひろばで、小仏川に面した南側は梅林がひろがる土手のようになっている。高尾梅郷の中央部に位置し、ベンチが多数あるほかトイレもあるので、中間休憩にはうってつけだ。

土手にひろがる梅林は実に見事で、山々を背景に咲く梅はまさに「梅の郷」という風景だった。土手の斜面に座ってぼんやり眺めるもよし。歩きつかれたらここでひと息つこう。
湯の花梅林

頭上高く通る圏央道をくぐり抜け、高尾梅郷もいよいよ後半戦だ。旧甲州街道と小仏川に挟まれた広場に「湯の花梅林」がある。ベンチも建物もなく、ただ梅の鑑賞に集中できる場所だった。ほかの梅林では大きな木に花がついていたが、ここは比較的細身の木に咲いており、盆栽を思わせる優美な枝ぶりだ。
するさし梅林

高尾梅郷のなかで2、3番目に規模が大きい「するさし梅林」は、摺指まちの広場にある。小仏川にかかるするさし橋を渡って広場に入る。ふだんは閉鎖されており、梅が咲く3月上旬から下旬まで開放されるという。
入り口をくぐると、まず円形の広場が目にとびこむ。広場を囲むように梅の木が植えられ、ここでレジャーシートを敷いてランチでもしたらどれだけ至福だろうと想像が膨らむ。

整備された園路を進むと、小径の両脇に梅の木がずらりとならぶ圧巻の光景が待っていた。まさに梅のトンネルだ。白梅が多いなか、ところどころに咲く紅梅がいいアクセントになっている。ここの梅はとくに密度がすごく、花がモリモリと木を覆う。
奥はロータリーのように園路がぐるっと円をえがいており、中心にも数本の梅が咲いている。
小仏川で隔てられた広場へ橋を渡ってゆく体験は、まるで梅の小島に足を踏み入れているようだった。梅の季節にだけ開放される特別なステージである。
木下沢梅林

高尾梅郷もいよいよ佳境に入ってきた。ここからは旧甲州街道を25分ほど歩いていく。道中には八王子の名店・峰尾豆腐店や、高台を走る中央本線、マス釣り場でつりをたのしむ人々の姿が見えた。このあたりまでくると道幅がせまくなるので、車やバスが来たときには気をつけよう。
中央本線が通る高架のトンネルをくぐると、道が二手にわかれる。左に曲がれば小仏梅林、右に曲がれば木下沢梅林だ。小仏梅林のちかくには高尾駅へ帰るバス停があるので、先に木下沢梅林へ行き、帰りに小仏梅林に立ち寄るのがよいだろう。
右の道をえらび木下沢梅林へむかう。急な上り坂を登っていくと、眼下に中央本線の線路や中央自動車道が見え、その巨大な建造物に圧倒される。
そしてついに辿り着いた木下沢梅林に息をのんだ。数えきれないほどの梅の木が咲きほこり、”梅の山”を成していたのだ。まるで梅の楽園である。
木下沢梅林はするさし梅林と同じく、梅の期間のみ開放されている。なお午後4時で閉園してしまうので、時間には気をつけたい。梅林は小山になっており、下段・中段・上段の三層で構成される。園路や階段を登って上段の広場を目指していこう。
さっそく梅林に足を踏み入れると、右にも左にも、そして頭上にも梅が咲いており、梅の世界に迷いこんだかのようだ。芝の地面や木の階段は登山道そのもの。このあたりは近くを通る中央自動車道を除けばほぼ人工建造物のない山奥で、自然をまるごと感じられる。どのくらいかというと、スマートフォンがネットにつながりづらいほどで、東京ではじめての経験に少し驚いた。
中段までくると上下左右が梅に囲まれる稀有な景色になる。そしてついに上段に到達。梅の景色もさることながら、まわりを山々にかこまれた裏高尾ののどかな自然にいやされる。ここまで歩いた苦労や疲れも一気にふき飛んでしまった。頂上の広場にはベンチがたくさんあり、座ってゆったりと観梅できる。ここで軽食をとるのもよいだろう。
たっぷり梅を堪能して梅林を出る。出入り口には梅林維持のための募金箱がおかれていた。木下沢梅林は中からみてもすばらしいが、やはり外から眺めるのが格別だ。700本にもおよぶ梅の木がここまで連なった景色は、まちがいなく東京最大級。梅が好きな方はぜひ訪れてみてほしい。
小仏梅林

高尾梅郷で最後かつ最も山奥にあるのが「小仏梅林」だ。先ほどの分かれ道にもどり、左の道をすすんでいく。この先は中央本線、小仏川、旧甲州街道が並走している。
小仏梅林は、広場というよりも道に沿って咲く遊歩道的な梅林だった。小仏川と旧甲州街道のあいだに梅が咲きつづいており、川を眺めながらのんびりと散歩をたのしめる。先ほどの木下沢梅林がフィナーレだとしたら、この小仏梅林はその余韻。おわりを締めくくるにふさわしい、おだやかな梅林だ。中央本線を特急が通ることもあり、タイミングが合えば梅と電車のツーショットも撮影できる。
まとめ
高尾梅郷の終着点、小仏バス停にたどり着いた。ここはバスの折り返し地点で、高尾駅北口まで送りとどけてくれる。バスはこれまで歩いてきた道を引き返すように走り、車窓を眺めていると今日の散歩をふり返るエンドロールのようだった。歩いてきた時間が走馬灯のように想起される。
なお、高尾山口駅前には「京王高尾山温泉 極楽湯」がある。散歩のつかれをいやすには最適だ。露天風呂からは遠くに高尾の山が望める。
お風呂あがりにはラーメンもよいだろう。八王子駅にある「花木流味噌 八王子店」は濃い味つけのクリーミーなスープが特徴で、みるみるうちに消費したカロリーが回復していく。卓上から山椒を追加できるめずらしいシステムもたのしい。ラーメン好きの筆者がとても満足できる一杯だった。



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