今回歩いていくのは、国分寺駅近くにある殿ヶ谷戸庭園。
武蔵野の起伏激しい地形を巧みに利用したこの庭園は、都内随一の紅葉の名所としても知られています。

この記事では、感動を後半に残すおすすめのルートで園内を巡っていきます。
大芝生の開放感から一転、急な斜面を降りた先にあるのは、紅葉した木々に囲まれた池、そしてそれらを一望できる高台にある紅葉亭です。
高低差が生むダイナミックな景観と、鮮やかな紅葉景色をレポートしていきます。
現地レビュー
入園者を出迎える紅葉の大パノラマ

チケット売り場でパスポートを提示し、はやる足で入園します。
入り口の門をくぐると、目の前には広大な大芝生と、それを囲む鮮やかな紅葉が出迎えてくれます。
赤く染まったモミジや黄色いイチョウが彩りを添え、その中央には冬の風物詩である雪吊りが堂々と配置されています。
入園してすぐのこの景色だけで十分に満足してしまいそうになりますが、実はこれはまだ序章に過ぎません。

ところで、園内は随所で園路が分岐しており、漫然と歩いているとすべてを回りきれずに進んでしまう可能性があります。
入り口でもらえる園内マップをしっかり確認しながら進みましょう。
最初の分岐点は、チケット売り場から入園してすぐの場所にあります。

「展示室」へ向かうか、「萩のトンネル」方面へ進むかの分かれ道です。
個人的には、ここで萩のトンネル方面へ進むことをおすすめします。
なぜなら、そのルートを選んだほうがこの庭園最大の見どころをコースの後半に持ってくることができ、より大きな感動を感じられるからです。
武蔵野の地形を感じられる造形

鮮やかな紅葉並木が並ぶ大芝生を横目に延段を歩くと、まずは萩のトンネルへと差し掛かります。
ここは例年9月中旬頃に見頃を迎え、トンネルを覆うように咲き乱れる紫色の萩の花が美しい場所として知られています。
萩の花の見頃は過ぎましたが、心なしか葉が紅葉しているように見えました。

紅葉のトンネルを潜ってその先へ進むと、今度は藤棚が現れます。
こちらも見頃は4月下旬頃で、春には頭上一面に紫色の藤の花が咲き誇るとのこと。
季節外れではありますが、棚の下にはベンチが置かれており、木漏れ日の中で少し足を休めて一息つくには絶好のスポットとなっています。
さて、ここからがいよいよ殿ヶ谷戸庭園の地形の面白さが際立つエリアです。

藤棚を後にして、目の前に現れる急な階段を降りて花木園へと向かいます。
実はこの急勾配の斜面こそが、この庭園の最大の見どころでもあります。
この斜面は「国分寺崖線(こくぶんじがいせん)」と呼ばれる地形によるものです。
武蔵野台地は、高台にある「武蔵野段丘」と、一段低い「立川段丘」によって形成されており、国分寺崖線はちょうどその2つの段丘の境界にあたります。

かつて多摩川が氾濫を繰り返し、およそ10万年もの歳月をかけて武蔵野台地を削り取っていったことで、現在のような姿が現れました。
美しい庭園の風景の中にダイナミックな地形の歴史が刻まれていること、それを巧みに利用して庭園を造成したことに、思わず感慨深い気持ちになります。
京都を思わせる竹林と紅葉景色

階段を降りた先は、斜面に沿って広がる花木園エリア。
訪れたのが冬ということもあり、この時はほとんど枯れ木で静かな佇まいを見せていました。
しかし、本当の感動はその先に待っていました。

現れたのは、圧巻の竹林を脇に続く竹の小径です。
小径を歩けば、右手には凛とした竹林が、そして左手には空を覆い尽くすほどの紅葉が視界いっぱいに広がっています。
清涼感のある竹の緑と、燃えるような紅葉のコントラストを同時に楽しめるのは、殿ヶ谷戸庭園ならではの景色です。

頭上の紅葉をよく見てみると、単に赤いだけでなく、深みのある真紅から鮮やかなオレンジまで、色彩のグラデーションが驚くほど豊かであることに気づかされます。
竹林と紅葉が織りなすその景色は、ここが東京であることを忘れさせ、まるで京都を歩いているかのような雅な風情を感じさせてくれました。
次郎弁天池を歩く

紅葉と竹林が頭上を覆う小道を抜けると、いよいよ庭園の中心部、「次郎弁天池」のエリアへと出ます。
周囲は深い木々に囲まれていますが、谷のように一段低い位置にぽっかりと開いた中心の池には、まるで舞台のスポットライトのようにあたたかな日光が注ぎ込んでいました。
この透き通った池の水は、台地に降った雨が地中に浸透し、この段丘面の下より湧き出したものです。
大地の恵みが、この美しい景観を造りだしているのです。

穏やかな水面には、鮮やかな紅葉景色が逆さに映り込んでおり息をのむ美しさです。
池の中央には情緒ある雪吊りが設置され、冬支度を整えた庭園の風情を一層引き立てています。
池の周囲はぐるりと歩いて回れる設計になっていますので、ぜひ足を止めながら、様々な角度から池と紅葉の景色を楽しんでみてください。

池のほとりを散策していると、この池に豊かな水を供給している「湧水源」を見つけました。
水温は年間を通じておよそ15〜18℃と安定しており、驚くべきはその水量です。
なんと毎分37リットルもの水がここで湧き出しているとのこと。
この豊かで清らかな水は「東京の名湧水57選」にも選定されており、東京に残された貴重な自然の営みを感じることができました。

次郎弁天池には沢渡りと呼ばれる飛び石が配置されており、池の水面を歩いて渡ることができます。
一つひとつの石を慎重に渡りきると、目の前には高さ3mを超える美しい段瀑(だんばく)が現れました。
まさか都内の庭園で、これほど間近に滝の風情を感じることができるとは驚きです。
このダイナミックな高低差を活かした景観は、まさに国分寺崖線に位置する殿ヶ谷戸庭園ならではの魅力と言えるでしょう。

流れ落ちる水は透明感にあふれ、高いところから激しく落下するというよりも、段々になった石の表面を滑り落ちるように優しく流れています。
その繊細で優雅に流れる水は、まるで広げた薄い絹のよう。
滝の脇には階段が整備されており、この美しい水の流れに沿って上へと登っていくことができます。

再び池周りを散策していると、今回の散策で私が一番気に入った特等席に出会いました。
そこは、低地に広がる次郎弁天池と、高台に建つ紅葉亭のちょうど中間地点の高さにあたる、断崖のデッキのような場所です。
まるでちょっとした見晴らし台のような、あるいはミニ清水の舞台のような空間です。

ここからは、眼下に先ほどの次郎弁天池と美しい段瀑を見下ろせるだけでなく、ふと見上げれば高台に佇む紅葉亭の姿も望むことができます。
池と滝、そして周囲を彩る紅葉の全てをまるごと視界に収められるあまりの居心地の良さに、時が経つのも忘れて、ベンチに座り長時間その景色を眺め続けてしまいました。
池と紅葉景色を一望できる紅葉亭

ベンチを後にして、いよいよこの庭園のシンボル的存在である「紅葉亭」を目指します。
落差のある急な階段を登りきった先、起伏の激しい殿ヶ谷戸庭園の中で高い場所にその建物は静かに佇んでいました。
高台に位置しているため、先ほどまでいた次郎弁天池を眼下に収め、園内を彩る紅葉のパノラマを一望することができます。

建物の中は広々としており、多くの人が腰を下ろして休憩できる空間になっています。
窓はガラスなどがなく吹き抜けで広く取られているため、心地よい風を感じながら景色を眺めることに特化した、贅沢な造りです。

この場所から改めて庭園を見下ろしてみると、木々の密度と上下の奥行きの深さに圧倒されます。
窓枠がまるで額縁のようになり、鮮やかな紅葉と谷底の池が織りなすその景色は、いつまでも飽きることなく見ていられる素晴らしいものでした。

紅葉亭のすぐ隣には、風情ある「鹿(しし)おどし」が設えられていました。
静謐な庭園の空気に、「カコーン」という竹の甲高い音が心地よく響き渡ります。
この鹿おどしは、天然石の水盤とユニークな形の奇岩を巧みに組み合わせて作られており、その造形も見事なものです。
水が注がれる「蹲(つくばい)」に目を落とすと、真っ赤な葉が水面に浮かんでおり、秋の趣をしみじみと感じさせてくれました。

そこから、いかにも日本庭園らしい小さな橋を渡ります。
ふと足元の清流を覗き込むと、透き通った水に鮮やかな赤色の金魚が優雅に泳いでいるのが見えました。
庭園の歴史を今に伝える展示室
最後に、入り口近くにある展示室に立ち寄りました。
館内には、殿ヶ谷戸庭園が歩んできた歴史がパネルで解説されています。
解説を読み進めると、かつて開発の波が押し寄せた際、地域住民による保存運動によってこの場所が守られたことを知りました。
園内をぐるりと一周し、出入り口であるチケット売り場のゲートへと戻ってきました。
今回は写真を撮ったり、ベンチで景色を眺めたりと、ゆっくり時間をかけて回り所要時間は大体1時間半ほどでした。
程よい広さと充実した見どころで、紅葉景色を満喫できた散歩でした。
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